末吉日記

マンガとアニメのレビューとプリズムの煌めき

アイカツ!67話にみる風沢そらの失恋の痛手、と藤堂ユリカのそれと79話

この記事はいちそらアドベントカレンダー4日目の記事です。

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アニメ本編中において、そらはいちごに対して失恋した――ドレスがいちごに選ばれなかった――のだという主張を、アドベントカレンダーが始まって以来繰り返してきました。風沢そらの失恋が64話にあり、そしてそらがそこから立ち直るプロセスとして67話があった、という話は以前の記事でも書きましたが、以前の記事では冗長に書いてしまったきらいがあるので、改めて手短に67話について語っておきましょう。

67話のタイトルは「フォーチュンコンパス☆」ですが、このコンパスとは恵方巻きのことを指していると考えられます。恵方を向いて食べる風習があるため、恵方巻きは恵方という特定の方角を向くことになります。この性質が南北を決まって指すコンパスの針として擬えられているわけですね。

67話では蘭もそらも迷子になっています。蘭の迷子についてはそうなるに至った理由が明確です。恵方巻きの具を見栄えのよいものにすると決めたはいいものの、その内心ではまだ迷っていたために、ロケで来ていた山の中で迷子になります。つまり蘭については、心にある迷いと山での迷いが結び付けて描かれているわけですが、そらの迷子に対しても同様に、心のなかに何かしらの迷いがあったのだと考えることができます。そのそらの迷いとは、やはり恵方巻きについての迷いだったのだと考えられます。そらは山へ向かうよりも前に恵方巻きを作り、それを食べたきいから太鼓判を押してもらっています。にも関わらずそらは恵方巻きについてのひらめきを求めて山へと向かってそこで迷子になっているわけですから、そらの恵方巻きへの思いも何かしら複雑なところがありそうです。そらの迷いとは、きいに太鼓判をもらった恵方巻きをうち捨てて山へ向かったことと密接に関係があるはずです。なぜそらは既存の恵方巻きを捨てたのでしょうか?

それを考えるために、そらの恵方巻きにこめられた思いについて類推してみましょう。その時そらが作った恵方巻きとは、恵方巻きとしては異様な、クリームと苺などの果物が巻かれたものでした。

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この恵方巻きは、67話に登場するある食べ物と対になるものと捉えられます。それは、蘭の作った海の幸入りのクッキーです。

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恵方巻きにフルーツやクリームを巻くそらと、クッキーに海藻や小魚を混ぜる蘭。どちらも大変個性的な料理となっていますが、そらの恵方巻きがきいを笑顔にしたのに対して、蘭のクッキーは食べたいちごの顔を曇らせます。

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67話において食べ物へと下される評価は、かつて蘭の祖母の語っていた「一番大切なのはどんな思いを込めるか。どんな気持ちで作るか。それが一番の調味料」の言葉にしたがいます。蘭のクッキーには思いがこめられていなかったため、いちごやファンの皆を喜ばせることができなかったのでした。そして、そらの恵方巻きには十分に思いがこめられていたということになります。

その思いとは、62話でそらがデザインした巨大ケーキと同じものなのではないかと私は考えます。甘いものが大好きないちごのために甘いケーキのような恵方巻きを作って、いちごを笑顔にしたい。その思いがそらの恵方巻きにこめられていたのではないでしょうか。この苺の恵方巻きを作ったのはいちごへの思いゆえであり、それゆえに、64話でいちごに選ばれなかった、いちごへの失恋を味わったそらは、この恵方巻きを没にして新たな恵方巻きのイメージを求める必要があったのではないでしょうか。

そして、そらと蘭の二人の迷子は山で出会います。そらは山の幸だけで作った恵方巻きをお腹を空かせた蘭のために作って蘭を満足させながら、「恵方巻きは自由な巻き物。正解なんてない。だからこそ自分が本当に信じるコーデを貫くしかない」と語ります。この恵方巻き=コーデという発想は、蘭の恵方巻きの特訓の際にいちごが語ったものと全く同じものです。

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恵方巻きの中身選びって、カードをコーデするのに似てるね!」

ここに、そらが本当にいちごのことを深く理解し、そしていちごに強く影響されていることを読み取ることができます。そらはいちごを「ずっと可愛いなって見てた」わけですが、ただその可愛さを愛でていただけではなく、そのいちごの持つ自由で豊かな発想に共感し、同調していたことが、このシンクロニシティから伝わってきます。そらはいちごから強い影響を受けており、そしてその、まさにいちごから影響されて得たであろう「恵方巻き=コーデ選び」という視座に立って、そらは蘭を元気づけたのでした。

そらは自らの恵方巻き=コーディネートを蘭へと食べさせました。そして85話において、蘭はそらのブランドであるボヘミアンスカイのドレスを着ることになります。あの苺の恵方巻きは、いちごが食べることのなかった恵方巻きとして、64話においてそらがデザインしたが着られることのなかったプレミアムドレスを想起させるものといえるでしょう。

こうした経緯を経て、そらはいちごのためのデザイナーというところから、蘭を含むより多くの人々のためにデザインしていくようになったのではないか、と私は考えています。

 

こういうわけで、風沢そらというキャラクターの物語の中核には失恋があるわけですが、同様に失恋をきっかけに成長したキャラクターとして、藤堂ユリカがいます。

79話「Yes!ベストパートナー」において、ユリカは蘭への思慕を、蘭をパートナーとして選ぶことによって明らかにしました。しかし、蘭はそらを選んでいて、そらもまた蘭を選んでいました。この失恋をきっかけに、ユリカはかえでと絆を深め、トライスターとしての過去を精算することができました。ユリカは失恋をきっかけに成長を遂げたキャラクターであり、そういう点で風沢そらと同じであるといえます。

79話といえば蘭の「わたしかそらの名前書いたのか?」が名言としてよく知られていますが、その言葉を曖昧に肯定したユリカに対して、そらは「なら、三人で話し合って……」と語りかけます。私はこのそらのセリフがとても好きなんですよね。かつていちごに選ばれなかったそらが、ユリカの悲しみを察して歩み寄るというシーンとなっていて。

あの時ユリカがそらの提案を受けていたらどうなっていたでしょう。または、もしあの時そらがもっと強くいちごへアピールして、いちごが福女レースの賞品としてボヘミアンスカイのドレスを所望していたら……。そういったもしもへの想像を、二次創作にぶつけていきたいと思います。

クリスマスに合わせて発表できるよう、いまいちそら小説を書いているのですが難航しています。なんとか書き上げられますように……。