アイカツ!108話「想いはリンゴにこめて」 リンゴにこめられた3つの想い
アニメ「アイカツ!」108話「想いはリンゴにこめて」に登場するリンゴについて考えていきます。
このエピソードでは、氷上スミレがロリゴシックのプレミアムドレスを得ようと夢小路魔夜の屋敷を訪れます。エピソード中に何度か繰り返し「リンゴ」が登場しますが、このエピソードにおけるリンゴは何を意味しているのか、そしてタイトルにある「リンゴにこめられた想い」とは何かについて、この記事では考えていきたいと思います。
わたしがこのエピソードを繰り返し見て感じたのは、リンゴを介してスミレが伝えようとしている想いとは、ひとつの意味に還元できるような単純明快なものではなく、いくつかの想いが絡み合ったものである――ということでした。
絡まる想いをほどいていくと、スミレの作る焼きリンゴにこめられた「想い」は、以下の三つの想いへと分解できます。
1.ロリゴシックというブランドに対する理解
2.ロリゴシックと姉に対する愛の結晶
3.ユリカという「白雪姫」と対峙するための小道具
これら三点について、それぞれ解説していきます。
1―『理解』について。
ユリカのCM撮影現場にてスミレは、ロリゴシックのダークなイメージと白雪姫という童話の残酷さは合うはずと指摘します。その指摘に対し、ユリカは「あなた、なかなか鋭いわね」とスミレの見識を高く評価します。
ロリゴシックの持つダークさをスミレがきちんと理解できていたからこそ、魔夜が作る白雪姫モチーフの新作ドレスには、白雪姫にとって毒であるリンゴがあえてつけられているはずと考え、焼きリンゴを差し入れとすることを決めたのでした。
そして、魔夜の部屋にて実際の新作ドレスと対面した時に、スミレは「ついてる!リンゴ!」と喜びをあらわにします。この喜びは、自分のロリゴシックに対する理解が正しいことを確かめられたことによるものでしょう。スミレは、自身のブランドへの理解の正当さを、リンゴを差し入れに選ぶことによって示したのでした。
2―『愛』について。
氷上スミレは、姉である氷上あずさとの結びつきが強く描かれているキャラクターです。スミレの習慣である「いいこと占い」はあずさの教えに由来するものですし、スミレにスターライト学園を紹介して受験するよう勧めたのもあずさでした。そして、スミレがロリゴシックに興味をもつようになったのも、あずさからの影響があったためでした。
魔夜の屋敷でロリゴシックに関するクイズを解く際、モデルとしてユリカが写るポスターを見ながらスミレが想い浮かべたのは、姉との思い出です。「ゴスマジックコーデ」のポスターを見て思い出すのは、それを真似て作られたドレスを着る姉の姿ですし、「ブリティッシュコーデ」のポスターを見て思い出すのは、真似て作られたドレスを着た自分に対する、姉の「すっごく可愛い」という賞賛でした。スミレのロリゴシックへの愛着は姉によってもたらされ、姉とともに育まれてきたものでした。
そして、スミレが差し入れとして持っていく「焼きリンゴ」もまた、姉によってもたらされ、スミレの中で育まれてきた料理です。
スミレにとって、ロリゴシックへの愛と姉への愛は密接に結びついて切り離せないものであり、焼きリンゴはその双方に対する愛のしるしとして選ばれたものだと考えられます。
3―『小道具』について。
「スノープリンセスコーデ」は、もともとはユリカのために作られていたドレスでした。CM撮影の際、ユリカが魔夜のドレス作りの進捗を把握していることや、ユリカのもとへ届いた魔夜のメールの文面から、このドレスがユリカのために作られていることが示されています。
「ユリカに似合いそうな 新作ドレスが出来たよ 見て欲しいんだけど忙しいかな?」
つまり、この「スノープリンセスコーデ」は、魔夜がユリカを白雪姫と見立てて作ったものということになります。
さて、ここで一つの疑問が生まれます。魔夜にとってユリカが白雪姫なのだとすれば、スミレの果たす役回りとは一体何なのでしょうか?もう一人の白雪姫?それとも……?
その答えは、ドラマの展開の流れのなかで、ごく鮮やかに提示されます。白雪姫=ユリカに対応するスミレの役どころは、鏡との問答を行うシーンにおいて、端的に示されます。
魔夜の屋敷にて、スミレが鏡から「鏡よ鏡、世界で一番ロリゴシックのドレスが好きなのはだあれ?」と問いかけられたとき、スミレは鏡の中にユリカの姿を見ます。
これは、童話の白雪姫において、女王が「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは誰?」と鏡に問いかけたときに、鏡が白雪姫の姿を映すくだりを踏襲するものです。つまり、スミレが鏡の中にユリカの姿を見るのは、女王が鏡の中に白雪姫を見ることと明確に対応しています。ここに、スミレ=女王、ユリカ=白雪姫という構図を読み取ることができます。
スミレは鏡の中にユリカを見て、「確かに、今は藤堂先輩には敵わないかもしれない。でも、それでも。いつかはきっと!」と答えます。この「いつかはきっと」は、挿入歌『タルト・タタン』の印象的な一節であり、また20話『ヴァンパイア・スキャンダル』でユリカが魔夜に言った「でも、きっとそうなる」を想起する言葉でもありますが、ここでは、スミレの抱いた”野心”が、童話の女王が持つそれに擬えられて発露されたものとして理解できるでしょう。
童話の女王は世界一美しい存在でありたいと強く願う人物であり、それゆえに、白雪姫を毒リンゴで殺そうとします。「いつかはきっと」世界一美しい存在になりたい――童話の女王が抱くそんな野心と、「いつかはきっと」ロリゴシックを世界一愛する存在となりたいというスミレの野心とが、この台詞で重ね合わせて表現されているわけです。
童話の女王は白雪姫を殺すことによって世界一への野心を満たそうとしますが、対するスミレはどう行動したでしょうか。つづくシーンでの、スミレ・ユリカ・魔夜三者の言動を追ってみましょう。
ついに魔夜と対面したスミレは、魔夜にプレミアムドレスを見せてもらい、そのドレスにリンゴがついていることをひとしきり喜びます。そんなスミレに対して魔夜は、「実はそのリンゴ、つけるかどうか最後まで迷ったんだ。だって物語の中では、白雪姫を危機に陥れる毒リンゴ」と語りますが、これを聞いたユリカは、何かに気づいたような、ハッとした表情を見せます。
ここでユリカが気付いたこととは何でしょうか。
ユリカはロリゴシックというブランドの性質、そのダークさを深く理解しているので、魔夜が白雪姫のドレスへ毒リンゴの意匠をあしらうことに驚いたりはしません。スミレがそう考えたように、ユリカもリンゴがついているのが自然と考えていたはずです。ユリカはむしろ、自然なはずのリンゴに、魔夜が迷った素振りを見せたことにこそ違和感を覚えたはずです。ユリカは魔夜が表明したかりそめの逡巡にひそむ真意に思いを巡らせた結果、何かに思い至ったのだと考えられます。
「ユリカに似合いそうな 新作ドレスが出来たよ」という魔夜のメールと、魔夜の新作が白雪姫モチーフであるという知識から、ユリカは自分こそが魔夜の創作の世界における白雪姫であるという文脈を理解できる立場にいました。であるならば、魔夜の「実はそのリンゴ、つけるかどうか最後まで迷ったんだ。だって物語の中では、白雪姫を危機に陥れる毒リンゴ」という発言について、ユリカは魔夜の文脈に応じた読み替え――白雪姫=ユリカという変換――を行うことができます。
ユリカは、魔夜の発言を次のように解釈したのだと考えられます。
”ドレスにリンゴをつけることは、ユリカに危機をもたらしうるだろう”
スミレがリンゴを選ぶことによって、ユリカに訪れる危機。それは、新作のプレミアムドレスがユリカの手に渡らなくなることに他なりません。魔夜がスミレに問うたリンゴの是非とは、ユリカからドレスを奪うことへのスミレの覚悟をあらためて問うものであるとユリカは気付き、目を見張ったのだと考えられます。
魔夜に問われたスミレは、表情を曇らせます。これは、魔夜の問いかけの含意に気が付いたことの表れでしょう。プレミアムドレスを得るためにはドレスをユリカから奪わなくてはならない。それは、CM撮影の控室でユリカから「あなたもロリゴシックのプレミアムドレスを狙っているってわけね」と言われたときから、わかっていたはずのことでした。
その覚悟が魔夜からあらためて問われます。「白雪姫のドレスにつけるのはどうかな?って」スミレの表情は曇ったままですが、そんなスミレに、ユリカはわずかに微笑みかけながらスミレに優しく返答をうながします。「氷上はどう思う?」
そのユリカの言葉に背を押されてか、スミレは「変じゃありません!」と叫ぶように言い放ち、ドレスのリンゴを、ぎこちなくも力強く肯定します。
高みに立つユリカを超えていくためにプレミアムドレスを必要とするスミレは、ユリカという白雪姫から「世界一」を奪い取るための「毒リンゴ」つきのドレスを肯定したのでした。
そしてスミレは、言い放った勢いのままテーブルへと近づき、持参した焼きリンゴを皿に盛りつけ、ユリカたちへ差し出します。
ユリカという白雪姫へと供されたリンゴ――。スミレは、魔夜の世界ではユリカこそが白雪姫であることを踏まえた上で、白雪姫を超えてゆこうとする女王としての自分を、毒リンゴの含みをもたせた焼きリンゴをユリカ=白雪姫へ差し出すことによって表現してみせたのでした。
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ユリカはスミレが屋敷へ入る前に、ロリゴシックのプレミアムドレスを着る者の条件について、「このブランドを愛し、理解し、その世界の住人になれる者だけ」と語っています。
スミレが焼きリンゴにこめた想いは、その条件全てに応えています。
「愛」について。スミレにとってはロリゴシックへの愛は姉への愛と深く重なるものであり、その姉から教わった焼きリンゴをつくることによってロリゴシックへの深い愛着を表現しています。
「理解」について。ロリゴシックの作風を理解していることを、白雪姫における「リンゴ」という少し残酷すぎるようなモチーフを敢えて手土産に持って行くことによって表現しています。
「世界の住人」について。ユリカこそが魔夜の世界の白雪姫であることを十分に把握し、スミレ自身が魔夜の世界における女王となろうとしていることを、ユリカという白雪姫に毒リンゴを食べさせようと振る舞うことによって表現しています。
スミレが全ての条件を満たしたことに満足したユリカは、プレミアムドレスをスミレへ渡すよう魔夜に促します。それを受けて魔夜はユリカに「ユリカはいい先輩になったね」という賞賛を送ります。
この台詞によって、いかにユリカがスミレをいかに丁寧に導いてきたかが改めて思い出されます。スミレがロリゴシックへの愛を魔夜へ伝える手段に焼きリンゴを選べたのは、魔夜は甘いモノが好きとユリカから教わったからですし、ドレスにリンゴがついてると確信できたのも、スミレのロリゴシックに対する理解をユリカが「鋭い」と認めたことが影響しているでしょう。焼きリンゴを用いたお芝居めいた表現も、当惑するスミレに対してユリカが微笑みながら「氷上はどう思う?」と促したおかげでできたことであるように思われます。
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憶測が大いに混じりますが、ユリカは訪問前日、スミレに同伴の許可を与えた後に、魔夜に対してスミレという新しい後輩に新作プレミアムドレスを譲りたい旨とそれに対する謝罪を伝えていたものと考えられます。
「スノープリンセスコーデ」はユリカのために作られたコーデでした。それは、ユリカがドレス制作の進捗を把握していたことや、ドレスのモチーフが白雪姫であることを発表より先んじて知っていたことからも伺えます。魔夜とユリカの二人で、時間をかけて作り上げてきたドレスだったのでしょう。そして、急にそのドレスを後輩に譲ろうとすることが、魔夜に対してどれほど失礼な振る舞いであるかを理解できないユリカではありません。
ユリカは魔夜に無理を言ってスミレへのドレスの譲渡を申し出たわけですが、だからこそ、魔夜に言われた「いい先輩になったね」という言葉がユリカには深く響いたことと考えられます。これはユリカの下した選択に対する魔夜の赦しであり、祝福でもあります。この言葉を聞いた時、ただその時だけは、ユリカの表情が吸血鬼の顔でもなく、先輩の顔でもなく、ただロリゴシックと魔夜を敬愛するひとりの少女の顔になるのでした。
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スミレの強い想いがユリカの導きによって、リンゴを介して伝わる――
ユリカの先輩としての素晴らしさ、そしてスミレの想いの強さが、技巧に富んだ脚本と繊細な演出によって描き切られたこの108話は、間違いなくアイカツ!を代表する名エピソードのひとつといえるでしょう。
その他各部
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このエピソードは20話「ヴァンパイア・スキャンダル」と、89話「あこがれは永遠に」を踏まえた内容になっていますので、その2話を見返してから観るとまた一段と面白く観ることができると思います。
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ユリカ=白雪姫、スミレ=女王として捉えると、序盤のスミレによるにんにくラーメンの差し入れもまた、『女王が白雪姫に毒リンゴを食べさせる』ことのメタファーであると捉えることができます。吸血鬼のユリカにとってにんにくが毒であるともいえますし、20話「ヴァンパイア・スキャンダル」において、ユリカにんにくラーメンの出前を受け取っている写真がスキャンダルとして週刊誌に載ったことを踏まえれば、ユリカに対して、にんにくラーメンは強い毒として機能するものということになります。
(20話のスキャンダル記事。この記事は89話でも言及される)
しかし、かつて20話でユリカを苦しめたこの「毒リンゴ」を、ユリカは髪をおろし、素のユリカへとキャラをパッと切り替えて平らげてしまいます。
この素のキャラをためらいなく見せられるユリカからは、知り合ったばかりの少女に素の姿を見せて勇気を与えたエピソード(89話)が思い出されます。
89話のCMの撮影で、ユリカがロリゴシックとハッピーレインボーという異なるタイプのドレスを巧みに着こなしていたことが端的に示すように、ユリカは吸血鬼と素の少女の異なるキャラクターを行き来しながら、どちらもきちんとユリカであるというように振る舞えるようになっています。
成長したユリカのもつこの強さが、108話のユリカがスミレに新作のプレミアムドレスを譲れる余裕の下地となっていると考えられます。
20話の時はスキャンダルと立ち向かうためにどうしてもプレミアムドレスを必要とするほど弱かったユリカが、89話では自分から素の姿をさらすことができるほど強くなり、そして108話ではにんにくラーメンという自分を窮地に陥れかねない毒リンゴさえも平気に平らげることができるようになっている――という描写のうちに、もはや後輩にプレミアムドレスを譲っても大丈夫なほどにユリカは強いということが示されているのではないでしょうか。
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102話の時点のスミレにとって、アイカツ!とは、他の人と衝突し、傷つけ合うものでした。そのため、スミレは他人を恐れながらアイカツをする、ひとりぼっちの少女でした。しかし、あかりとの出会いをきっかけに、スミレは誰かとアイカツをする喜びを知ります。このスミレの成長がなければ、スミレは「おかしくありません!」と叫ぶことはできなかったでしょう。毒リンゴの肯定はユリカとの衝突を意味します。他者との衝突を恐れながらも、立ち向かい乗り越える喜びをあかりと共に知ったからこそ、スミレはリンゴを力強く肯定することができたのです。
また、スミレが臆病さを克服するという構図が、144話のドッキリ回(魚を克服)でも再び示されていたことから、この「臆病の克服」を、スミレというキャラクターの成長の主軸とみることが可能でしょう。
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DCDアイカツ!における白雪姫のロマンスを持つコーデは以下の5種。
ウィキッドミラーコーデ
ガーリードワーフコーデ
スマイルドワーフコーデ
ポイズンアップルコーデ
スノープリンセスコーデ
スノープリンセスコーデ以外のものに目を向けると、コーデのモチーフは魔法の鏡、小人、小人、毒リンゴ、となっていますが、主要な登場人物であるはずの「女王」をモチーフとしたものがありません。
この役柄のチョイスは、スノープリンセスコーデが「白雪姫」と「女王」の両者が着られるドレスであることを暗に示すものと考えられます。
白雪姫のためにデザインされたドレスを女王として着る。スミレが見せたそんな新しい可能性にユリカも魔夜も心を動かされたからこそ、ユリカは「私、氷上スミレがあのドレスを着てるところが見てみたい。魔夜さんもそう思ってるんでしょ?」と魔夜に語り、魔夜も「あなたに任せる。上手に着こなして」とスミレにドレスを託したのではないでしょうか。スノープリンセスコーデを女王として着ることは、白雪姫のためのドレスというデザインからの逸脱ではありますが、その逸脱をも認めてドレスを託す魔夜の姿勢が「あなたに任せる」の一言にこめられているとも考えられます。
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フォトカツの PR[恋するリンゴ]氷上スミレ はスミレがスノープリンセスコーデを着ているのですが、鏡のこちら側と向こう側で違うポーズ・違う表情となっているのが印象的です。
無垢な笑顔を浮かべる少女と、鏡の向こうに居る妖しげに微笑みながらリンゴ片手にその少女を横目に眺めるもう一人の少女、というのは、白雪姫とそれを鏡の向こうから見つめてリンゴを食べさせようとする女王、というイメージとぴったり重なるものではないでしょうか。ここからも、スノープリンセスコーデが白雪姫と女王の両者のイメージを併せ持つドレスだと考えられます。
これめちゃくちゃ欲しいんですけど引けてないんですよね……。引きたい……。PR4%またきて……。
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魔夜の館でスミレたちの前に立ちはだかる試練たちは白雪姫をモチーフにしたものが多いですが、それらの内実は20話の時にユリカの前に立ちはだかったものと似通っています。急に現れて驚かせてくるネコ、老婆を羽交い締めにする仲間、驚かせる役のアルバイトが実はアイドルファン、壁の向こうからのマイクを使った試練、という要素が共通しています。
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上から20話、89話、108話でユリカ様が見せる笑顔。かわいい。
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『タルト・タタン』のステージの最後、鏡が割れる描写があります。白雪姫のヴァリエーションのひとつに、物語の最後に鏡が割れて女王が死んでしまう、というものがあります。108話のスミレが白雪姫における女王であることからすれば、これもまたロリゴシックらしい、ダークな表現というふうに見ることも可能かもしれません。が、103話のステージなどと比較するとその解釈はちょっと違うかな、という感じがします。
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『タルト・タタン』は103話→108話→117話と3つのステージで用いられる曲で、その3つのステージでそれぞれ表現が異なっています。目立つ差異は「反転」です。ごちゃごちゃテキストを観てもピンと来ないかもなので、比較動画を貼っておきます。これを観ながら読んでもらえるとわかりやすいと思います。
103話
初め:向かって左にリボン。
スペシャルアピール後:衣装が反転。ダンスの振り付けも反転。
鏡に触れる:衣装も振りも戻る。
最後:鏡が割れる。
108話
初め:向かって右側にアップルクラウン。
スペシャルアピール後:衣装が反転。ダンスは反転しない。
鏡に触れる:衣装が戻る。触れるときにウインクする。
最後:鏡が割れる。
117話
初め:向かって右側に帽子、衣装の右側にリボン。
今まで木の影に隠して見せなかった「読み取れない万華鏡」の振りをきっちり見せる。
スペシャルアピール後:衣装、ダンス共に変化なし。
「彼は私を」のところで、180度転回し、鏡に向かって踊り始める。
「好きになる~」のところで、カメラが鏡に映るすみれの瞳にズーム。
→瞳がフェードしていき、反転した衣装をまとったスミレが映る。ダンスは反転せず。
鏡に触れる:衣装が戻る。これまでとは違い、鏡の中の自分を見るのではなく、鏡の横からスミレを撮っているカメラに目線をやっている。
最後:カメラが鏡の裏側に回りこみ鏡を映すと、あたかも鏡が透明な硝子になったようにスミレを映す(衣装も振りも反転せず)。
背景には合わせ鏡がスミレを挟んでいると思しき光景が映される。
・103話verと108話verの差
103話と108話の主な違いは、103話はスペシャルアピールの後に衣装と一緒にダンスの振付も反転してしまうが、108話は衣装だけが反転してダンスは反転しない、というものです。衣装が反転していることから、これらのスペシャルアピール後のシーンでは「鏡に映ったスミレ」を映しているのだと思われますが、その場合ダンスも反転している方が自然なはずです。つまり、103話ではスミレは普通に踊っていて、それが鏡に映ったものをカメラが写しとっているが、108話では、スミレはスペシャルアピール後、敢えて左右逆の振り付けで踊っているということになります。これは何を意味しているのでしょうか。
これは、スミレがカメラが何を写しているかを理解し、それに合わせて動きを変えられるようになった、ということを意味しているのではないでしょうか。
・108話verと117話verの差
117話ではほとんどのカットでカメラの位置が変更されています。最も特徴的なのは「読み取れない万華鏡」の振りが今まで見えないように物陰で隠していたのが見えるようになっていることでしょう。これは117話verの最後のカットが合わせ鏡のスミレであることと、万華鏡が複数枚の鏡を組み合わせた合わせ鏡の一種であることとの重ねあわせであるとみることができます。『鏡』というオブジェクトに対して、117話のスミレが習熟していることの表現といえるでしょう。最後のシーンの鏡だったはずのものが、あたかもマジックミラーであるかのように透過してスミレの姿を映し出すのも、『鏡』とスミレの関係の発展を示す描写と思われます。
また、103話と108話の間にあった『カメラ』についての習熟も更に進んでいます。それを示すのが、鏡に触れるところの描写の差異です。108話では鏡に写った自分に対してウインクをしていますが、117話では鏡の脇にあるカメラに目線をやっています。その他にも117話verではカメラの位置を強く意識したカメラ目線などが多く見られることから、『鏡』と同様に『カメラ』とスミレの関係もまた発展しているといえるでしょう。
・これらの違いは物語とどう関連しているのか?
というのを姉のあずさとスミレの関係、あるいは歌とモデルのどちらを選ぶかの問題などから考えてみたのですが、うまく説明できるような理屈が考えつきませんでした。単純にスミレがステージに習熟した、というだけにしてはかなり細やかな描写なので、何らかの意図があるとは思うのですが。ひとまずはこれからも考えていく課題として残しておきたいと思います。
追記:「アイカツ!ステージビジュアルブック」のインタビュー記事にて、3DCGディレクターの北田伸氏がタルト・タタンの3回目の演出について、
「1回目と2回目はデータカードダスと同じ演出にしたんですが、3回とも同じ見せ方にしてしまうと飽きられてしまうと思ったので、3回目は合わせ鏡を取り入れるなど大きく演出を変えたんです。本当にそれだけで、あまり深い意味をもたせていませんでした。」(P99)
と言及してらっしゃるので、合わせ鏡については深い意図はないということのようです。はっきりしてスッキリしたような、肩透かしを食ったような……。