アイカツ!コミカライズのぷっちぐみベストシリーズが"凄い"
アイカツ!のぷっちぐみベスト!シリーズのコミカライズを読みました。
アイカツ!まんが&まんが家カツドウ! (ぷっちぐみベスト!!)
- 作者: かなき詩織,小鷹ナヲ
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2014/07/23
- メディア: 単行本
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アイカツ!まんが&12星座うらない (ぷっちぐみベスト!!)
- 作者: かなき詩織,サンライズ,小鷹ナヲ
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2014/09/18
- メディア: 単行本
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読む前はふーん?ぷっちぐみ?幼年誌だしな~~という感じで正直ナメてたんですけど、読んだら圧倒的な出来にブチのめされました。
凄い、凄いですこのコミカライズ。
アイカツ!のぷっちぐみベスト!!シリーズは2冊出てまして、「まんが&12星座うらない」にはぷっちぐみ2013年11月号から2014年10月号までの連載が、「まんが&まんが家カツドウ!」にはぷっちぐみの2014年3月号付録の別冊小冊子のために描き下ろされた連作短編が収録されています。
どちらの本のどのエピソードもアイカツ!らしくよく練られていて素晴らしいのですが、そのなかでも特に感動したのが「まんが&まんが家カツドウ!」収録の「キラ☆パタ☆キャワワ♪」というお話でした。わずか8ページの短編なのですが、これがほんとに研ぎ澄まされた凄みを感じる作品だったので、この記事ではこの短編について詳細に語っていきたいと思います。
■シリーズ「アイドル7人物語」とは
まず「まんが&まんが家カツドウ!」について説明していきます。この「まんが&まんが家カツドウ!」に収められているのは「アイドル7人物語」というタイトルのもとに描かれた連作短編で、ソレイユの3人とドリアカの4人、合わせて7人のアイドルたちが、デザイナーズアクセサリーコレクション(DCD2014年第3弾キャンペーンレアのシリーズ)のアクセサリーを得る過程をそれぞれ描いたものです。
今回取り上げる第5話の「キラ☆パタ☆キャワワ♪」はタイトルからわかる通り風沢そらが主役の回で、そらがいかにして自らのブランド、ボヘミアンスカイのデザイナーとして「ボヘミアンサークレット」を作り上げたかが主題になっています。
作品のあらすじを紹介しましょう。
■あらすじ
いちごとそらはショーの仕事のために動物園を訪れていました。ふたりがショーまでの空き時間に園内を散策していると、飛んできた一羽の鳥にいちごのカチューシャが掠め取られてしまいます。その鳥を追いかけるいちごは、道中で仲良くなった大きな鳥の助けを借りてカチューシャを取り戻しますが、取り戻したカチューシャは壊れてしまっていました。すると、そらは壊れたカチューシャを即興でアレンジしてアクセサリーを作り、いちごへ渡します。大いに喜ぶいちごでしたが、そうこうしているうちにショーの時間が迫ってきていました。ふたりは大きな鳥に教わった会場への近道を急ぎますが、会場すぐ手前の切り立った急な坂に足止めされてしまいます。途方にくれるそらでしたが、いちごはためらいなくその坂を飛び降りてゆきます。それにつられるように、そらも坂を飛び降り、無事間に合ったふたりは見事にショーを成功させます。後日、この日のいちごの自由な姿に着想を得て、そらはボヘミアンサークレットを完成させたのでした。
■作品の美点:華麗な対比
この作品の演出上の要点は、そらのデザインした二つのアクセサリーをめぐる対比にあります。すなわち、壊れたカチューシャを鳥の羽根でアレンジしたアクセサリーと、そらが最後に作り上げたボヘミアンサークレットをめぐって、相似を演出する描写がなされています。詳しく見ていきましょう。
それぞれのアクセサリーについて、「どうやってデザインの着想を得たのか」という質問がそらに投げかけられます。そらの返答は、カチューシャについては「今日は鳥からイメージをもらったの。鳥はきれいで自由で…大すきよ。」、サークレットについては「今回のイメージは…、さい高に自由でキャワワな女の子から!」と答えます。
カチューシャのアレンジについて(まんが&まんが家カツドウ!P49)
サークレットのデザインについて(まんが&まんが家カツドウ!P52)
この二つのアクセサリーをめぐる問いかけと返答が対をなしていることは明らかでしょう。「どうやって考えるの?/どうやって思いつくの?」という問いと、「イメージ」をもたらした存在が「きれい/キャワワ」で「自由/さい高に自由」である「鳥/女の子」だというそらの返答。
「鳥/女の子」の対は、ストーリーの中で、いちごに鳥としてのイメージが繰り返し付与されていることによって暗示されています。
柵をとび越えて鳥のすみかへと入り込むいちご(まんが&まんが家カツドウ!P47)
「鳥だったらとべる」坂をとび下りるいちご(まんが&まんが家カツドウ!P50)
■作品の美点-対比の乱れ-
さて、先ほど、アクセサリーをめぐる二つのやり取りは綺麗に対をなしていると語りましたが、ひとつだけ対称から外れた要素があります。それは鳥に対してだけ語った「大好き」という言葉です。
ここまで語ったとおり、この短編全体を通して周到にいちごと鳥の対比は用意され、力強く演出されているわけです。そして、そらは鳥が大好きであるわけですから、その鳥と相重なるイメージを持ついちごに対して「大好き」と思っていなかったとは思えません。
むしろ、「大好き」をあくまで対称による暗示に留めることによって、かえってそらの抱く思いのひそやかさと真摯さが感じられるようになっているのではないか?と思います。
わずか8ページながら、織り込まれた美しいパターンとそこから浮き上がるそらの愛情の紋様に魅了されずにはいられない、珠玉の短編。まさかぷっちぐみでこんな比喩を巧みに使った技巧的な物語が語られていたとは…!
■驚くべきさらなる仕掛け
これだけでももう十分な傑作といえるこの「キラ☆パタ☆キャワワ♪」ですが、コミックス「まんが&12星座うらない」とあわせて読むと、この「キラ☆パタ☆キャワワ♪」に織り込まれていたさらなる仕掛けに気づくことができます。
「キラ☆パタ☆キャワワ♪」でいちごがつけていたカチューシャは、ぷっちぐみ2014年2月号付録である「ジュエリーハートカチューシャ」(おもちゃ・アイカツカードともに付録)なのですが、「まんが&12星座うらない」収録の第5話ではなんと、「ジュエリーハートカチューシャ」のカードをいちごとあおいが交換しているところが描かれているのです。
(まんが&12星座うらないP24)
(まんが&12星座うらないP25)
ということは、そらがアレンジする壊れたカチューシャは、いちごがあおいと交換した、元はあおいのものだったカチューシャということになります。
(まんが&まんが家カツドウ!P48)
(まんが&まんが家カツドウ!P49)
つまり、あおいがいちごに渡した親友としての象徴たるカチューシャを、そらは愛情をこめてリメイクしていたわけで、いちごをめぐる3人の関係がカチューシャを介して密やかに描かれていた、ということになります……。いや、本当に凄い、凄い以外の言葉を失います……。こんな心に鋭利に突き刺さるやり口が…幼年誌で行われていいのか…?
(まんが&まんが家カツドウ!P64)
いちごをイメージしてそらがデザインしたボヘミアンサークレットをあおいがすてきと褒めるシーンなどもエピローグ的に描かれており、この物語がいかに周到に描かれているかについては皆さんにも十分ご理解いただけたことと思います。
このかなき詩織先生&小鷹ナヲ先生のタッグが描くぷっちぐみベスト!シリーズ新刊、「まんが&クイズ」は12/2に発売!あかりジェネレーションの面々がどのように描かれているのか。めちゃくちゃ楽しみです。