末吉日記

マンガとアニメのレビューとプリズムの煌めき

『新緑のラルゴ』に見るガルパシナリオの技巧

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イベント『新緑のラルゴ』で、氷川紗夜は白金燐子に「正射必中」の精神を語る。弓を正しく引くことこそが目的であり、的に当たるのはただの結果でしかないこと。周囲の期待に応えるのではなく、ただひたすら、己の正しいと信じることをなすべきだということ。

「正しくひく」と紗夜が語るとき、そこにはギターを正確に弾く『秋時雨に傘を』の紗夜の姿が立ち現れ、弓道着姿の紗夜と二重写しとなる。

 

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「秋時雨」で、紗夜は自らの「正確な」演奏を、日菜の自由な演奏と比べてつまらなく思い、もがき苦しむ。

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日菜との衝突の果てに、紗夜は自らが持つ性質である「正確さ」を信条としながら精進し続けるという結論を出した。

ギターを正しく弾き続けることこそが自分の歩むべき道であると定めた紗夜が「正射必中」を語るときには、そこに「秋時雨」の匂いが混じって響く。

正しくひくことは、「秋時雨」において燐子にとっても重要な行為である。

「秋時雨」において燐子は、正確すぎることに悩み苦しむ紗夜へ共感を抱き、そしてそれを受け入れながら進む紗夜に憧れの感情をしめす。

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「[微かな心配]白金 燐子」の「自由に憧れるのは」。紗夜の「正確すぎる」という悩みに共感する燐子。

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同じく「[微かな心配]白金 燐子」の、「ボレロを奏でて」。

燐子は、正確さに苦しむことへの共感から紗夜を理解し、それを乗り越えた紗夜への憧れを抱く。「ラルゴ」において、紗夜に導かれて燐子が正しくひくことーー紗夜の「正射必中」を成し遂げてみせるのは、燐子が憧れへと近づく新しい一歩を踏み出せたことを鮮やかに表現するものであるのだ。

 

そして燐子はピアノのコンクールへと向き合い始める。

正確に弾くことから逃げない覚悟を抱いて。

 

過去のイベントへの参照を弓とギターを重ね合わせる暗喩で織り込み、それぞれのキャラクターが経てきた文脈を踏まえた大きな変化のシーンを、象徴を用いて端的に描き出す。この語りこそが、ガルパのシナリオを一層味わい深いものとする技巧なのである。