青葉モカは国語が得意
ガルパの、Afterglowバンドストーリー2章である『ツナグ、ソラモヨウ』をラストまでプレイしました。はちゃめちゃに面白かったです。その中で一箇所、この表現は凄いぞ!と大声で語りたくなるシーンがありましたので、そこについて語っていきます。
以下ネタバレがありますのでご注意ください。
アフロ2章で一等のお気に入りシーンがこれです。
第3話。蘭はスタジオで新作の詞を披露しますが、Afterglowの4人の心には届きません。その帰り道に、モカは蘭の歌詞を背伸びと評しながら、加えて「あたしは国語が得意だから、なんでもわかっちゃうんだな〜」と口にします。
「国語が得意」。このセリフがめちゃくちゃエモい~~! というのも、モカの「国語が得意」は、『夕影、鮮明になって』第3話の「あたし、国語得意だからさ」を反復するものだからです。
この反復の意味について考えるために、「夕影」での「国語が得意」がどのような文脈で発せられたかについて読んでいきます。
「夕影」はAfterglowが中学2年生の頃のお話です。クラスで孤立していた蘭は、抱える寂しさを詩にしてノートに書きつけていました。その詩を読んだモカは、蘭の心情を、そして蘭が詩を書くことの意義をすみやかに理解します。
他人の言動を読み解き、気持ちを察する能力に長けているモカ。モカの言う「国語が得意」は、この能力を自賛する言葉といえるでしょう。
しかし、モカの国語能力については、続くシーンでもう一つの側面が語られます。
「読み解くのと書くのはまた別なんだよ~。」モカが詩を書けないこと、ひいては、自分の気持ちを言葉にするのが苦手であることが、国語が得意にもかかわらず――という逆説によって表現されます。
モカの表現のつたなさは、様々なエピソードで表出します。代表的なエピソードとしては、バンドストーリー1章第14話で蘭にケンカを売るくだりが挙げられます。
このときのことは、2章第8話でモカ自身が「あんまり、うまく言えなかったけど」と振り返っています。
表現のつたなさは、「夕影」、1章、2章にわたって繰り返し現れる、モカが向き合い続けてきた困難そのものです。だからこそ、そんなモカが反復させる「国語が得意」には、若干の自虐めいたニュアンスが含められているように感じられるのです。
蘭の思いを誰よりも理解できると自負しつつも、悩む蘭を救う言葉を与えられないことを嘆く。この引き裂かれた思いが、「夕影」で「国語が得意」に与えられた文脈ではないでしょうか。
(いつか……あたしが蘭を助けてあげられたら、いいのになあ)
2章第7話、公園で蘭が慟哭した瞬間は、まさにその「いつか」となりうる時だったでしょう。
しかしモカは、うまく言葉を紡ぐことができません。
誰よりも蘭を理解できているのに、そばにいるのに、どうして「ごめん」なんて、つまらないことしか言えないんだろう?――というのは私の国語能力の限界ですが、ともあれ、私たちプレイヤーがモカの心情をありありと感じられるのは、このシーンに至るまでに積み上げられてきた、彼女たちの物語がよく書かれていたからでしょう。そして、その語りの技巧として、「国語が苦手」のリフレインがきわめてよい働きをしているなあと、私は考えています。