末吉日記

マンガとアニメのレビューとプリズムの煌めき

【ネタバレ】アリスとテレスのまぼろし工場

岡田麿里監督のアニメーション映画『アリスとテレスのまぼろし工場』を劇場で観ました。良いと思ったのでどのあたりが良いと感じたのか書き留めておこうと思います。ネタバレがあります。

 

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良かったのは、恋愛と、子供への愛の分離が丹念に描かれていたところです。

トンネルは産道のメタファーであり、最後の泣き声は産声でした。そこまでセリフで懇切丁寧に説明せんでも……と思わなくはなかったですが、とにかく五実は失恋して、現実の世界に生まれ直しました。現実から分岐して変化の止まった世界における父、というややこし〜い人物への恋慕が、その世界の母によって丁寧に手折られるシーンこそがこの作品の白眉であり、今回書いておきたいと思ったことの中核でもあります。

五実の失恋を促す勝利宣言までに睦実が頑張ってたことって、正宗との恋愛がなし崩し的に成立することをなんとか防ぐことだったんですよね。因果の狂った存在である五実の存在によって、現実世界では子供ができてるってことは……という子をかすがいにしたアプローチも可能だったでしょう。しかし、睦実は五実を正宗との関係に介在しないように徹底的にはねのけたうえで、ゲーセンの駐車場での情熱的なKiss...にまで至りました。

しかし、睦実は五実をただ排除しているわけではなく、むしろ愛しています。風呂にも入れるし、寒がる五実のためにセーターを手編みしたりもする。ただ、それと恋愛は別であるという態度は貫く。印象的に提示された対比があって、クラスメイトの将来の夢はお嫁さんだけど、睦実の夢は「保母」でした。恋愛結婚とその先にある子育てを一気通貫で考えるのではなく、労働として子供のケアをする道を見ている。睦実は、恋愛もしてるし、子供も好きなんだけど、それらを独立させている。

これって愛の交歓であるセックスの結果として子供ができる現象についての、ひとつの精確な記述だと思うんですよね。恋愛で意中の人と結ばれる幸せと、子供をつくり育てるという幸せは全くの別物なんだという思想を、睦実の複雑な行動が示しているように捉えられる。ここがこの映画の面白いな〜と思ったポイントでした。以上です。