末吉日記

マンガとアニメのレビューとプリズムの煌めき

『Angelic Angel』からみる劇場版ラブライブ!


【試聴動画】『ラブライブ!The School Idol Movie』劇中歌「Angelic Angel」

 

劇場版ラブライブを語るとっかかりとして、公式に試聴動画が公開されている「Angelic  Angel」のステージについて考察してみたいと思います。確かめてないのですが、この試聴動画が劇場版のステージの映像と同一であるという前提のもとで、このテキストは書かれています。もし異なっていたらごめんなさい。

 

このステージの舞台はタイムズスクエアとセントラル・パークの2箇所であると思われます。タイムズスクエアは世界でも屈指の看板の広告料が高いエリアとして知られています。μ’sを、そしてスクールアイドルを宣伝するにはうってつけの場所でしょう。セントラル・パークは作中で訪れていると思しき公園で、メンバーの誰かがここでライブするのも良いという感じの発言をしてた気がします(うろおぼえ)。

 

「Angelic Angel」におけるタイムズスクエアの背景には様々な広告がありますが、その中でも目立つのが実在するミュージカルのパロディの看板群です。『THE TIGER QUEEN』は『THE LION KING』、『JEWELRY GIRLS』は『JERSEY BOYS』、『PiCKED』は『WiCKED』、仮面と『PHANTASY』は『The PHANTOM Of The OPERA』のパロディであると考えられます。他の看板についてもそれぞれ元ネタがあると思いますがとりあえずわかる分だけ列挙してみました。

ラブライブでは、TVシリーズにおいても「ミュージカル的」表現が度々用いられました。とくに1期1話の「ススメ→トゥモロウ」、2期1話の「これまでのラブライブ! 〜ミュージカルver.〜」、そして2期13話の「Happy Maker!」の3曲はミュージカル的な表現と感じるところです。

何を以ってそのシーンをミュージカル的と見做すかと定義するのは難しいですが、ここでは「歌に合わせた踊りや動きなどを含みつつ場面が展開していくが、シナリオの流れ上歌の流れる蓋然性が低い」ものをミュージカル的と呼びたいと思います。この定義に沿えば、2期13話の「愛してるばんざーい」や、2期1話の「ススメ→トゥモロウ」などは、ストーリー上歌う必然性が高いからミュージカル的ではない、2期13話の「Oh,Love&Peace!」は卒業しようという歌詞はあるもののやや唐突な楽曲の挿入ではあるのですが、音楽に合わせた踊りや動きがないのでミュージカル的ではない、ということになります。

さて、この分類に則れば、劇場版における各学年の楽曲「Hello,星を数えて」、「?←HEARTBEAT」、「Future style」が流れるシーンはどれもミュージカル的であるといえます。劇場版は、ミュージカルを演出のひとつの手法として用いながら、背景(とくにNYの背景)にミュージカルのポスターを繰り返し配置しており、ミュージカルというものに対し強い言及を行っていることは明らかです。これまでのラブライブ!においてミュージカルはどのような意味をもって描かれてきたでしょうか?

 

それは、唯一製作者側からミュージカルであることが明確に示されている2期1話の「これまでのラブライブ! 〜ミュージカルver.〜」のシーンから読みだすことが可能です。このミュージカルの後に、海未が実際は穂乃果は壇上で固まって何も言えなかったことを指摘します。ミュージカルとして描かれたのは虚構の生徒会長就任挨拶であり、現実は異なっていた、という指摘であり、ここから、ラブライブにおけるミュージカルは、虚構性を強く孕む表現であると捉えることができます。

 

劇場版における「ミュージカル」ですが、シンガーが歌っていた場所の背景にもミュージカルのポスターが描かれています。おそらく二人が出会ったのもこのタイムズスクエア付近だったのでしょう。多くの劇場が建ち並び、街中にミュージカルの広告が溢れる、現実と虚構が混じりあう街。それはアニメやゲームの看板がそこらに貼りだされている秋葉原と似ているような――そんな街だからこそ、穂乃果はシンガーと出会うことができたのかもしれません。シンガーは穂乃果を除くμ’sの他のメンバーには見えず、またシンガーから受け取ったままのマイクも、誰も見えていないかのように話題の端にも取り上げられません。シンガーとマイクは虚構的存在であり、穂乃果はそれをタイムズスクエアで垣間見たのでしょう。

 

さて、以上のことを踏まえてAngelic Angelのステージについて考察していきます。

このステージの背景において、奇妙な対応をみせている1対の看板があります。

f:id:yoshidastone:20150715170220j:plain

サビに入るところで映される舞台右上の「PHANTASY」の文字と仮面が描かれた看板と、

 

f:id:yoshidastone:20150715170427j:plain

舞台左側にある「PHANTOM SMARTPHONE」の看板です。

PHANTASYは元ネタがオペラ座の怪人、「The Phantom of The Opera」でしょうし、それとその元ネタの「Phantom」を対になる形でステージを挟むように配置してあることには何かしらの意味があると考えられます。phantasy=幻想。phantom=幻影。これらの看板は、このタイムズスクエアにおけるステージの虚構性を示しているのではないでしょうか。実際にステージを撮影した舞台はセントラル・パークであったけれども、穂乃果がタイムズスクエアで歌うことをシンガーとの出会いを通じて夢見てしまったから、幻想であるこのステージがスクリーンに映しだされてしまった―我々が穂乃果の華々しい生徒会長就任挨拶から始まるミュージカルを観てしまったように― というのが私のAngelic Angelへの解釈です。

「ココはどこ? 待って言わないで わかってる 夢に見た熱い蜃気楼なのさ」

 

 

帰国すると、「Angelic Angel」によってμ’sは大ブレイクしています。それにつれて変わっていった秋葉原の街の光景は、どこか現実の秋葉原と似てはいないでしょうか。街にはμ’sの熱狂的なファンがいて、μ’sが描かれた看板やポスターが並んでいる状況は、2015年の秋葉原と近いものとなっています。「Angelic Angel」という現実と虚構が混ざりこんだ映像がきっかけで、現実世界におけるμ’sへの認識と、ラブライブ世界におけるμ’sへの認識が漸近していくのです。この現実と虚構の漸近こそが、劇場版ラブライブを読み込む鍵なのではないか、と指摘したところで一旦論を閉じることとします。

こういったメタフィクション的な仕掛けを用いて、結局この映画はいったい何をやってのけたのか?ということについては、また項を改めて書きたいと思います。