末吉日記

マンガとアニメのレビューとプリズムの煌めき

アイカツ!123話「春のブーケ」にみるアーサー王物語の影、と風沢そら

いちそらアドベントカレンダー3日目の記事です。

www.adventar.org

 

本日、フォトカツの次のイベントである「開幕!フォトカツ紅白」の詳細がお披露目になりましたね。

 以前よりPR大空あかりがメドレーイベントの報酬となることが明かされており、もし上位報酬だったら地獄だぞ…と思われていたフォトカツ紅白でしたが、PRあかりは上位報酬だけではなく完走報酬としても配布されることが判明し、ほっと胸をなでおろした方も多いのではないでしょうか。

このフォトカツ紅白というのは63話「紅白アイカツ合戦!」を踏まえたものでしょうし、紅白アイカツ合戦といえばドリアカ勢が大活躍するエピソードなので、風沢そらの活躍なるか、期待したいところですね。

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と、ここまで書いたところで信じがたい訃報がTLに流れてきました。井内秀治さんが亡くなられたとのことです。

井内さんはキャリアも長く、携わった作品も数多いですが、私にとってはプリティーリズムシリーズの印象がとても強いです。レインボーライブのシリーズ構成はじめ、オーロラドリーム、ディアマイフューチャーの絵コンテ・脚本を担当されていて、シリーズの中核を担う存在でした。井内さんの力が注ぎこまれたプリティーリズムが本当に大好きで、私にとってとても大切な作品です。心からお悔やみ申し上げます。

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今日の記事は予定を変更して、123話「春のブーケ」について語りたいと思います。

アイカツ井内秀治さんが絵コンテを担当している回はふたつあって、ひとつは137話「ワクワク☆ユニットカップ」、そしてもうひとつがこの123話です。

 

123話で私が着目したのは、瀬名がロマンスストーリーのドレスを作る上で、どの物語をテーマにするかを選ぶ際に、瀬名がアーサー王物語の本を読んでいる点です。

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後のカットには、瀬名の机の上に散乱する絵本たちが描かれますが、それらと比べてややアーサー王物語が特権的に描かれているように思われます。

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なぜこのエピソードにおいて、他の絵本よりも一等大きくアーサー王物語が取り上げられているのでしょうか?私はそれは、123話が「不義の恋」の物語であるからだと考えています。

 

アーサー王物語において重要な役割を果たすキャラクターのひとりとして、ランスロットという騎士がいます。ランスロット湖の騎士と呼ばれる、アーサー王に忠誠を誓う騎士であり、円卓の騎士のなかでも特に武勇を誇る人物でした。しかし、アーサー王の妻であるグィネヴィア妃と道ならぬ恋に落ちたことにより、円卓の騎士を二分する大きな争いを引き起こしてしまいます。この戦いの結果、かつての主君であったアーサー王は死に、愛するグィネヴィアは出家します。ランスロットもまた出家して、二人は離れ離れに暮らす……というのがランスロットの物語の末路です。

また、アーサー王の円卓の騎士にはランスロットと並び立つ高名な騎士としてトリスタン(トリストラム)という騎士がいますが、この騎士の物語として「トリスタンとイゾルデ(イズー)」という物語がよく知られています。トリスタンは叔父であるコーンウォール王・マルケに仕えていましたが、マルケの結婚相手として金髪の乙女であるアイルランドの王女・イゾルデを連れてくるよう命を受けてアイルランドへ向かいます。王女を得るために竜を退治したトリスタンはイゾルデを連れて船でコーンウォールへと向かいますが、そこで二人は媚薬を飲んでしまい、愛で結ばれてしまいます。マルケ王とイゾルデが結婚したあとも二人は密通を重ねますが、その道ならぬ恋は王に露見してしまいます。イゾルデから身を引いて旅立ったトリスタンは、ブルターニュでもう一人のイゾルデ<白い手のイゾルデ>と出会って結婚しますが、トリスタンの心は金髪のイゾルデに惹かれたままです。ある戦いで傷ついたトリスタンは、金髪のイゾルデに会いたいとコーンウォールへと連絡します。金髪のイゾルデはトリスタンの元へと向かいますが、嫉妬にかられた白い手のイゾルデは、トリスタンに対して金髪のイゾルデは来なかったと嘘を吐きます。絶望したトリスタンは絶命し、それを知った金髪のイゾルデも後を追って死ぬ――というのが、「トリスタンとイゾルデ」のあらすじです。

 

アーサー王物語にみられる、主君の妻と不義の恋に落ちて悲しい結末を迎えるこれらの物語たちのイメージこそが、123話のあり得たかもしれないストーリーを暗示するものなのではないでしょうか。つまり、瀬名翼が湖の騎士となり、あるいは星宮いちご金髪のイゾルとなり得た可能性というものを、瀬名の読むアーサー王物語の本は語っている、ということです。瀬名は恩師・天羽あすかのミューズである星宮いちごのためにプレミアムレアのドレスをデザインしようとします。一人のアイドルと、二人のデザイナー。星宮いちごと、天羽あすかと、そして――。

そのように123話を捉えてみたとき、そこに見出される三人の関係性とは、じつは64話の三人の関係性と近しいものといえます。64話でそらは熱心にプレミアムドレスをデザインしますが、しかしいちごはそらのドレスを選ばず、あすかのドレスを選びました。

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64話。福女レースで優勝しお仕立券を得たいちごにみな拍手するなか、そらひとりだけ拍手しないで立っている。

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139話、「ジョニーと花嫁」で挿入される天羽あすかに教えをこう風沢そらの回想。

瀬名もそらも天羽あすかの教えを受け、またどちらもいちごを求めたことのあるデザイナーであるという共通項があります。さらに加えるなら、二人にはどちらも茂みから飛び出してくる、という共通項もありますね。瀬名は春のブーケ・123話の3話後の126話に、そらはフォーチュンコンパス☆・64話の3話後の67話に、それぞれ茂みから飛び出してきます。その時瀬名は迷っていませんが、そらは迷っています。そのそらの「迷い」については以前書きましたので、合わせて読んでいただければと思います。

瀬名とあかりの関係はいちそらの失敗(そらの失恋)の上にはじめて成立するポストいちそら的関係となっている、と結論づけたところで今日はおしまいにします。お読みいただきありがとうございました。グンナイ……

 

参考にしました:

ランスロット - Wikipedia

トリスタン物語の成立と発展/あらすじ: トリスタン研究ノート

トリスタン - Wikipedia