末吉日記

マンガとアニメのレビューとプリズムの煌めき

【シャニマス】「はこぶものたち」に出演しました

シャニマスのシナリオイベント「はこぶものたち」と「アジェンダ283」のネタバレが含まれます。

 

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現在シャニマスでは放クラのイベント「アフター・スクール・タイム」をやってますが「はこぶものたち」の話をします。

 

実は私……イルミネのシナリオイベント「はこぶものたち」に出演していました!

お気づきになりましたか?

イルミネのみなさんの陰で活躍した私の出演シーンはこちら!

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もう一度、スローでご覧頂きましょう。

 

 

 

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文脈を説明させてください。

話は「アジェンダ283」に遡ります。

私はアジェンダ、めちゃめちゃ好きなんですけど、でもシナリオ中にどうしても割り切れないところもあって、こういう批判的な感想を書いてました。

 

 

アジェンダでは、SDGsとからめるかたちで、ゴミ拾いの話が展開されました。

 

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夏葉は、ひとりひとりがペットボトルで水を飲む行為がゴミを生む行為だと語りました。それ自体はもちろん正しい主張ですが、アイドルとはマスに対して消費を促し、ひとりひとりの選好に影響を与えるような存在であるはずです。

何百万人にペットボトルの飲み物を買おう!飲もう!と大きな声で呼びかける。そんな広告のお仕事をアイドルは日々行なっているはずですが、この営みについて、夏葉はSDGsの観点でどういう評価を下すのでしょうか? ほんとうに、「ペットボトルを使うことそのもの」こそがごみを生み出す行為なのでしょうか? こういった問いが、作中で語られることはありませんでした。

 

アジェンダは、アイドルと環境問題というテーマを設定しつつ、その両者のあいだに明らかに存在する、商業主義、流行、過剰といったクリティカルな要素に触れないでいます。

 

大量のアイドルのCDが廃棄されているところに出くわしたストレイライトはアイドルと「過剰」の問題に限りなく近づきます。

しかし結局は、冬優子のアイドルとしての感傷に帰着させる話運びでまとめられてしまいます。

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真乃たちイルミネは一周回って、消費社会を素朴に礼賛します。

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アイドルというのは、先に触れたように大量生産/大量消費社会における重要なプレイヤーであって、アイドルである彼女たちが消費を言祝ぐのはきわめて自然なことではあるんですが、アイドルという仕事が環境へどんな影響を与える存在かについての視点をもたないまま、SDGsのこと考えてます、環境のこと考えてます、ってポーズ取られるのは嫌!!!という気持ちが、先程の批判ツイートの発端となったわけです。

 

「アイドルという仕事からは、消費者の欲望を喚起して消費を誘発する広告塔の役割を切り離すことができないのであって、自らがもつ役割が環境に与える悪影響について内省することなしに、環境について考えています!というポーズを取るのは欺瞞だ」

つまり「(大量消費を誘発する存在であるアイドルが考えなしに口にする)エシカルは欺瞞」なんですよね。

 

そういうわけで、「はこぶものたち」では率直にこのフラストレーションを八宮めぐるさんへお伝えさせていただいたわけですが……。

 

「はこぶものたち」では、真乃が広告に出てキャンペーンを告知し、たくさんの客を誘引した結果、配達員の労働条件が悪化したうえに事故まで起こるという「広告」の陰の一面が描かれました。これって、アジェンダからの大きな進展だと思うのですよね。アイドルとしての仕事がいかに社会と結びついているか、いい影響だけでなく悪い影響を与えうるかという面とイルミネはがっつり向き合おうとしていて、そこには好感をいだきました。

エシカルは欺瞞」がアイドルの耳に入り、広告をするのにも社会へのさまざまな影響があり……アイドルと社会の関係をアイドル自身が理解し始めたこの「はこぶものたち」は個人的にはアジェンダの続編として楽しめた次第でありました。

 

「はこぶものたち」では、アジェンダの環境問題に続く社会的なテーマとして、労働問題がキーになっているように感じました。事故った兄やんも、ハーフタイムショーで焦げ付いてしまったイルミネも「事実上監督下に置かれているにもかかわらず正社員ではなく個人事業主として扱われて会社から守られず、トラブル発生しても自己救済が求められる」存在であるように感じられて、見ていて辛さがありました。

フーデリといえばやはり労働者を労災にも入れずに危険な路上で働かせることで利を得てきた業界というイメージがありましたし。

www.businessinsider.jp

 

そもそもサッカークラブのハーフタイムショーが燃えたのは、クラブがこれまで育ててきたカルチャーにそぐわないアプローチをフーデリ会社がオーナーとして強行したことに対する当然の帰結であって、なんか派手なことしてオーナー変わったことを印象づけたいというフーデリ会社の持っていたヴィジョン自体が原因の根本のはずなんですよね。

いくら丁寧に給仕したところでアレルギーの出る食材を使った料理は食えないのであって、そこでイルミネがもっとうまく届けていれば……などと考えるのは、なんだか筋の通らない話だなと思いました。

ただ、中間にあって媒体としてはたらく存在にも責任があるはずだと考えるのは、広告塔として仕事することの社会的な意味や重みをきっちり理解するという、私がアジェンダについて感じていたフラストレーションを解消してくれるものではあったので、まあちょっとフーデリ会社をいいところなく描きすぎたんじゃないかなくらいに捉えています。

 

今後、イルミネや他のユニットがどんな社会的責任と向き合いながらアイドルとして成長していく姿が描かれるのかを楽しみにしながら、一旦筆を置きたいと思います。

 

 

 

 

ふう、たくさん書いて疲れたな……

あ、めぐるちゃん配信やってんじゃん!

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ゲーム日記 Vampire Survivors

巷で話題?のVampire Survivorsを遊んだ。総プレイ時間は10時間で、なにをもってクリアと言うのかはわからないが2ステージクリアしたのでひとまずクリアという感じになった。ネタバレがあるね。このゲームのネタバレってなんやねんとも思うが、その話もします。

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ジャンルとしてはローグライクアクションで、じゃかぽこ湧いてくるザコやボスを倒して武器を強化してまたザコやボスを倒して……の繰り返し。

強くなっていく曲線とザコの強くなり方が結構はっきり加速する感じで、そこが好感触だった。自分の成長速度を少しでも有利にできればそこからスノーボールできて気分がいい。

ただ、武器の進化はちょっとやりすぎというか、ギアが3段階くらいぐいっと上がるので、あまりにも成長速度が高まりすぎてどうやったら負けるの?って状況になってしまう。

まあ死神を倒すとか色々とやりこみはあるようなので、それを目指すのには丁度いいバランスだったのかもしれない。それでも、12,3分ごろに進化キメて20分過ぎには装備完成してあとは30分までうろうろするだけというのはなんかもうちょっと欲しいなという感じだった。

 

自分個人の体験としては、実はかなり長い間武器の進化という概念があることを知らなくて、毎回15分で死んでて。それでくそー次は勝つ!みたいなモチベーションがあって、それであるとき普段とらないブレイサー取ってみたらナイフがめっちゃ強化されてびっくりしたということがあって……そこから30分到達はすぐだった。

プレイ時間全体の8割、8時間は進化について知らないで遊んでたわけだけども、ゲームについて知らないおかげでかえって長くゲームを楽しめたわけで、これはネタバレを踏まなくてよかったなと思った。ゲームを有利にすすめるためのギミックをプレイを通じて理解していくプロセスってのは二度とは取り戻せない一度きりの体験なので、Vtuberのプレイ配信にコメントするときは気をつけようと思った(あんまりコメントしないが、たまにする)

ゲーム日記 NEEDY GIRL OVERDOSE

凄腕インターネッターにゃるら氏謹製の話題作、『NEEDY GIRL OVERDOSE』を1/21~23あたりにかけてプレイしました。

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英題が「NEEDY STREAMER OVERLOAD」なのめちゃいいですね。配慮……ローカライズの困難さ……がにじみ出ていて。

おそらくは全エンディング見て、steamには総プレイ25時間と出てます。けど寝落ちや放置した時間も多分に含んでるはず。

 

ネタバレ外でよかったところ

  • サウンドトラックがめちゃいい
  • 画面がゆめかわvaporwaveでいい
  • 製作者にしっかりとした哲学があるのを感じる
  • ちょっとしたテキストの生々しさがいい
  • オタク・サンプリングが巧み
  • ドット絵のバリエーションやアニメーションが凝ってて見ていて飽きないししっかりかわいい

 

以下にはネタバレがあるね。

 

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ゲーム日記 グノーシア

気になってたグノーシアのSteam版が出てたので買ってプレイしました。

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総プレイ時間20時間くらいでクリア。良かったです。

 

  • 宇宙船の中でループに囚われた主人公が、NPC相手の人狼を延々と繰り返すゲーム
  • レベルの概念があり、レベルが上がると説得が有利になったりスキルを取得できたりする
  • レベル上昇につれて勝利が簡単になってくるが、シナリオの要請で特殊条件を満たすことが求められるようになるのでそこで達成感を得られるようになっている
  • NPCの思考ルーチンがそこまで賢くないので人狼に慣れてる人だとキレちゃうことが何回かあると思う
    • 人狼と思ってやるとキレちゃうけど人狼風のRPGをやってると思うと耐えられるかも
  • ループに囚われた主人公とヒロインがいかにその状況と立ち向かうか……というSF部分が面白かった
  • グラフィックはかなり味のある独特な塗りのイラストで好みだった。表情もころころ変わるし見てて飽きなかった
  • RTAやったら見ごたえありそう。あるのかな?

 

 

純日記 21/8/29 FF3ピクセルリマスター

FF3ピクセルリマスター(PR)のSteam版を買い、めちゃめちゃやっていた。2周クリアして、オニオン装備を一式集めたりもした。めちゃめちゃ楽しい。

FF3自体はFC版とDS版をやってたのだけど、FC版はクリスタルタワーがキツく、DS版は途中のどこか(忘れちゃった)がしんどくて途中で辞めちゃったので、まともにクリアしたのは初めて。

PR版は最後までサクサク進められた。FC版を踏襲しつつ、遊びやすくアレンジがかかっていて、そのアレンジ具合がとてもよかった。特筆すべきはバトル時のコマンド省略機能で、Xボタンを押すことにより前回と同じ行動をオートで高速に実行してくれるものなのだが、これがかなり快適だった。

このオート機能は、同じくPR版で改修の入った熟練度システムの改修と組み合わさり、ゲームにちょっとした奥行きとアクセントを加えてくれている。

FF3のジョブシステムには、一つのジョブを使い続けることでジョブの性能が上昇する「熟練度」システムというものがある。PR版では、キャラクターの行動した回数1回につき1ポイントの経験がたまり、5ポイントたまると熟練度が1上昇するという仕組みになっている。熟練度が高くなると攻撃力などにボーナスがあり、戦闘が有利になる。

以前のバージョンでは行動によってもらえる経験ポイントは違っていたらしいが、PR版ではどんな行動でももらえるポイントは全て1となっており、「アイテム」、「ぼうぎょ」コマンドでも上昇する(「チェンジ」「にげる」はダメかも?)。ただし、経験ポイントを得るには実際にその行動を完了している必要があり、行動前に敵が倒された場合、経験ポイントは加算されない。また、1回の戦闘では5ポイントまでしか経験ポイントが加算されないという制約があり、長いターンのかかるボス戦で熟練度が一気に2以上あがるということはない。

ここで重要になってくるのが、「ぼうぎょ」はターン開始直後に行動完了扱いになる、ということだ。熟練度を効率よく稼ぐ上では、この仕様を理解して使いこなすことが非常に大切になってくる。

例えば、ゴブリンが2体出現したとして、4人全員がゴブリンをワンパンで倒せるとする。このときに、4人全員で攻撃したとすると、2人目の攻撃で戦闘が終了してしまい残り2人の行動は未完了なため、2人にしか経験ポイントが積まれない。一方、2人ぼうぎょ、2人攻撃したとすると、全員の行動が完了した扱いとなり4人全員に経験ポイントが積まれる。ぼうぎょを適切に選択したおかげで、倍の経験ポイントが得られたわけだ。

敵の体力とこちらの与ダメをうまく把握して、最小限の火力で攻撃して残りはぼうぎょにまわす。あるいは、弱い敵を1体残して全員ぼうぎょするターンを数ターン挟んでから倒して一戦闘で経験ポイントを5稼ぐ。こういったプレイがFF3でうまぶるための基本戦略となる。

煎じ詰めればFF3のザコ戦とは、「消費リソースを最小限にする」こと、「(煩雑な操作をせず)短い時間で倒す」こと、「より多くの経験を積む」ことを要件とするパズルを解くこととなっていく。そして、このパズルはオート戦闘が絡むことによってより複雑となる。ここが楽しいのだ。

たとえば、ゴブリン4体とエンカウントしたとき、こちらは全員ゴブリンをワンパンできる、ゴブリンが確定で先制行動、通常時の被ダメは1、ぼうぎょ時の被ダメは0.5、前回の戦闘でも同様の行動を選択していた、と仮定したとき、こちらが取りうる合理的な行動は以下のように多様だ。

・4人全員で攻撃し、1ターンで終わらせる

→被ダメ4、熟練度4ポイント、操作は特になし

 

・1人だけ攻撃を3ターンして4ターン目は全員ぼうぎょ、5ターン目に1人攻撃で倒す

→被ダメ2.5+1.875+1.25+0.5+0.625=6.75、熟練度20ポイント、操作切替2回

 

・3人で攻撃したあと2~4ターンは全員ぼうぎょ、5ターン目に1人攻撃

→被ダメ3.5+0.5*3+0.625=5.625、熟練度20ポイント、操作切替6回

 

「強くなりたい」「ダンジョンを安定して攻略したい」「早く先へ進みたい」、自分の中にどう優先順位をつけてどう行動するか、その戦略と合った行動が取れているかが各戦闘ごとに問われるのがPR版FF3のいいところだな、と遊びこんで思った。

PR版FF3、おすすめです。

ノーカラットの批判的な感想メモ

シャニマスのイベントノーカラットのあんまり好きじゃなかった点メモ

・緋田美琴が魅力的に見えない

魅力的に描いちゃったら実力あるのにアイドル的魅力に欠けていて売れないって設定が破綻しちゃうってのもあるんだろうけれども、あまりにも愛着をもちづらい人物造形でつらかったし、しかもその美琴の「実力」自体にも疑問符がつくような描写だったのにも違和感があった。

例えばフェスに向けたレッスンのとき。経験が浅くナーバスになっているにちかを美琴はフォローせず完全にスルーしていたけど、これは場を取り仕切るポジションにいる人間としては決してやってはいけない類の振る舞いだろうし、これは美琴がステージを作る能力を欠いている描写として映ってしまった。長く芸能の現場にいるなら場の空気を掴んで良くすることくらいできてほしいよ。にちかは限界メンタル時のバイトのバック業務でも場を明るくするための愛想を求められて懸命に対応していたのに……。

また、ステージでリフトを使う演出意図についてプロデューサーが「なるべくたくさんのお客さんと同じ高さの目線で向かい合えるよう」と説明しているのにもかかわらず、美琴がリフト上でターンしようとしていたのもどうかと思った。ターンしながら客と目線合わせられるのか?話を理解できてないか演出意図を無視しようとしている単なる無能に見えてしまった。危険度の検討もせずプロデューサーや舞台監督に確認せずリハぶっつけでやろうとするのもダメだし……。

 

能力があるにもかかわらず成功しない――という美琴の前提が割とあやしくなってしまったために、緋田美琴のドラマが今後構築可能なのかについてはかなり不安になってしまった。

 

・比喩が直接的すぎる

コマ大会の比喩、皆さんはどう思いました?わたしは直接的すぎてウェッとなりました。シャニマスはもっと上品なメタファーを提供してくれていたと思うけど、ちょっと今回のコマ大会は……。

けどサポのはんだごてって言っちゃって失格になるくだりとかはよかったな。自分の持っているイメージを伝えようとしてルール違反をしてしまうところはリフターでのターンを強行しようとするところと通じるように読めたり……でもタクシーで道訊かれてまっすぐって答えるところは意味が取りづらかったりするし……うーん……全体的には低調という印象がぬぐえなかった。

【階段式純情昇降機】杜野凛世 「某日、入り前」を読む

【階段式純情昇降機】杜野凛世の1つ目のコミュ「某日、入り前」を読解していきます。

シャニマス、とくに杜野凛世のプロデュースアイドルカード全般に関するネタバレがあります。

 

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コミュ1:「某日、入り前」

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冒頭、凛世は「でろー…………」と連呼する。エスカレーターを背景に、プロデューサーは「こんな場所で」と笑う。二人が会話を交わすのが、仕事先の建物内であることがうっすらと(のちにはっきりと)示される。凛世が「こんな場所」にそぐわない「でろー……」を繰り返し口にするのは、いったい何故なのだろうか。

 

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回想にて。寮の前に停めた車内で、凛世の眉間に刻まれたしわを見たPは、オンとオフ、仕事とプライベートの切り替えをするよう凛世に促す。

オフへの切り替え方として、プロデューサーは凛世にバターやチョコレートソースが溶け出す光景を想像させて、リラックスを促す。これは、実在の瞑想法として、頭の上に載せた蘇(バターかクリームチーズのようなもの)が溶け流れる想像をする、「軟酥の法」というものがあるのだそうだ。

「と、トーストの上で…… とろっと溶ける……バター……」

目を閉じて、凛世は復唱する。

 

凛世は、たびたびプロデューサーの言葉を自分で口にし直すことがある。そのなかでも特に印象に残っているのは、水色感情True「R&P」の、プロデューサーの言葉を喜びとともに復唱する凛世の姿だ。

 

「R&P」のRとPがなにを意味するかについては諸説あるが、そのひとつに「Record and Play」という解釈が存在する。

「R&P」で、凛世はプロデューサーの発した「自慢のアイドル」というフレーズを大切に記憶し、そして繰り返し再生することによって、喜びにひたっている。

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記憶して、発声する。凛世はレコードであり、そっと針が落とされると、胸のうちから水色の感情を載せた声が溢れる。アイドルとしての姿に色気が乗り、その魅力は広く伝わる。しかし、プロデューサーがその音を、心を、色を、わかることはない。

 

凛世にとって、プロデューサーの言葉を復唱することは、音を反復させるだけの営みではない。

凛世という一枚のつややかな盤にプロデューサーの言葉が刻まれること、そして、音が流れること。それは、凛世のアイドルとしての在り方を象徴する行為なのである。

 

「階段式」に話を戻す。

バターに続く「でろーっと広がるチョコレートソース」で笑ってしまい、凛世は復唱に失敗する。プロデューサーが繰り出した「でろーっ」という独特なオノマトペがツボに入ってしまったのだ。プロデューサーはお互いの抱いている「チョコレートソースのかかったパンケーキ」のイメージに齟齬があるのではないかと的はずれな懸念を抱くが、凛世は軽やかに否定したのち、「でろーーっ」というユニークなオノマトペを弄びはじめる。

凛世のお気に入りとなった「でろーっ(と広がるチョコレートソース)」というフレーズには、ある象徴的な意味を見出すことができる。

それは、「仕事とプライベートの中間領域」だ。

第一に、このフレーズは、仕事場から寮へと送り届ける車内という、仕事とプライベートの境界であるような場所で凛世に与えられた。

第二に、このチョコレートソースのイメージはオンとオフの切り替えを促す手段として凛世に与えられた。パンケーキに温められて次第に粘性を低めていくチョコレートソースの連続的な状態変化が、「仕事」と「プライベート」との間をなめらかに推移することを意味している。

 

回想が終わり、エスカレーターに背景が戻る。「でろーーっ」を繰り返し口にする凛世をたしなめようとするプロデューサーへ、凛世はこう応答する。

「ここを……のぼりきったら……」

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ここで、凛世のたくらみが明らかとなる。

エスカレーターという、離れた二つの階層を連続的につなぐ機械の上で、のぼりきるぎりぎりの直前まで「でろーーっ」と繰り返すこと。それは、仕事とアイドルという分かたれた二項のあいだで、その狭間においてのみ成立するプロデューサーとの関係を、懸命に愛おしむ所作にほかならない。

仕事の上ではプロデューサーとアイドル。プライベートではただの他人。だけど、そのあわいにわずかだけ、新しい関係の生じうる領域が存在する。凛世はそこに思いを懸けて、チョコレートソースを溶かすのだ。